それにしても相変わらず宮崎氏の観察ベクトルは素晴らしい。データは己の参考にするものであって、己の独自の結論を作り出すものではない。多くの知識人と呼ばれる人達が、メディアなり、メールマガジンなりで己の結論をごり押しするのに比べ、宮崎氏の文章はさらりと、且つ、これでどうだと言わんばかりの事実の列挙。であるにも関わらず、これ以上無い説得力を持っている。
それまでの無料メルマガを有料にしたり、日記を有料メルマガに移行したりする人が居るが、それはそれで思うところは有るのだろう。しかし、俺の望む"啓蒙"とは異質なもので、非常に残念な事だ。増してや、宮崎氏のメルマガが無料であるのと比べると、よほどの質の向上が無いと大量発行は無理。つまり有料化は"啓蒙"とは逆行するに他ならない。自分が信じるものに金を突っ込むのは株式投資や新興宗教と紙一重でもある。俺は博打も新興宗教も大嫌いだ。
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成19年(2007年) 1月14日(日曜日)貳 通巻第1675号 特大号
プーチン“資源帝国”の足枷はウクライナばかりではなかった
兄弟仁義もなんのその、ベラルーシも猛烈に怒ってパイプラインを止める暴挙にでた
「昨日の友は今日の敵」。
そもそもベラルーシのルカシェンコ大統領とロシアのプーチン大統領は肌が合わない。お互いに心の底から嫌いらしい。
性格が似ていて独裁志向がそっくり。だから近親憎悪?
或るヨーロッパのメディアは「愛のない兄弟関係」(エコノミスト誌、07年1月13日号)と書いた。
言い得て妙である。
発端はロシア側にある。
ガス供給をまず0年1月1日にウクライナ向けから突如中止し、つぎにモルダビア(モルドバ)、グルジア、アゼルバイジャン。
これらの国はソ連崩壊以来、「ロシア離れ」を露骨に示し、とくにウクライナは親欧米派のユーシェンコが大統領になってNATO入り表明など、その実現は遠いにしてもロシアとしては面白い筈がない。
そして「同盟者」、「兄弟分」と言って讃え、一緒に「通貨同盟」まで組もうとしていたベラルーシがプーチンに逆らい始めた。原因はロシアの一方的なガス代金値上げである。
これが2006年一年間を通じてのロシアの資源戦略のツケ。
つまりはガス供給価格を旧ソ連の同胞だった国々にもヨーロッパ向けと等価にしたい、と言いだしたのが、資源戦争の始まりだった。
ロシア政府系の天然ガス独占企業は「ガスプロム」(例のサハリン2を途中から横取りした企業)。
ロシアからの石油とガスは、その90%がパイプラインを経由して輸出されている。パイプラインは総合計2万9000マイルに及ぶ。最大の顧客はEU諸国だが、地政学的にみて、EU全体のガス輸入の20%がウクライナ経由、12%がベラルーシを経由する。
パイプラインの死活的意味が、ここにある。
ガスプロムのミレル社長は昨年も押し詰まった12月27日、「ベラルーシとの間で天然ガスの値上げ交渉がまとまらなければ、ガス供給を07円1月1日から停止する」と脅迫めいた発言をした。(これを聞いた米国のチェイニー副大統領が「まるで脅迫だ」と発言したのだ)。
これはベラルーシを経由するパイプラインを通じてロシアの天然ガスを輸入するドイツ、ポーランドなど欧州諸国が悲鳴を挙げる事態に発展しかねない。
ちなみにEU全体で、44%のガスと30%の石油はロシアから。ロシアからみても、全輸出の60%がEU向け(フリーメーケットニュース、06年12月29日付け)。
だから日本をのぞく世界のマスコミは大きく報じた。資源戦争だ。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は「ロシアが非友好的な行動に出た」と怒りを示し、閣僚に対抗措置を検討するよう指示した。
ガスプロムはいきなり四倍強の値上げを通告、激怒したベラルーシは「それならば」とロシアからのガスパイプラインを逆に停止してしまったのだ。
その前にもベラルーシはパイプライン通過料として1トン当たり46ドルの関税を課すと発表し、プーチン政権へ報復に出た。
ガスのほか、日量100万バレルの石油がベラルーシを通過するパイプラインを経由してドイツなどに輸出されている。
ベラルーシは07年1月8日、ロシアからポーランド、ドイツ、ウクライナに向かう「ドゥルジュバ(友好)パイプライン」を実際に停止した。単に脅しではなかった。
「技術的な問題」を言いつくろって三日間、ロシアが悲鳴を挙げるのをまった。
ロシアは「価格交渉は極めて公平に扱い、市場の価格に近い安い値段をベラルーシには提示した」とした。
要するに同盟ベラルーシへの特別扱いは止める、ということである。
ロシア唯一の兄弟国だった。しかし通貨統合論議がでてからというもの、ルカシェンコは「私はロシアの一州の知事ではない」とモスクワと距離をおく発言が目立つようになった。
このベラルーシの行動に激怒したもう一人の男がいる。
ロシアの最右翼、視野狭窄な国家主義を獅子吼するジリノフスキーだ。かれは「ルフシェンコは(ロシアが梃子入れして再選された恩を忘れた)危険人物、ベラルーシで選挙をもう一度行えば、彼が大統領職を継続できるわけがない」と痛罵した(インタナショナル・ヘラルド・トリビューン、07年1月13日付け)。
ベラルーシばかりではない。資源小国でガス供給を止められら経済がなりたたない国が多い。
とくにグルジアはもっと苛烈に虐められている。しかし四倍の値上げを通告されて困惑したグルジアを救ったのは南のアゼルバイジャンだった。
アゼルもロシアの仕打ちに我慢できない処があるらしい。そのうえバクーからはトルコへ抜けるパイプラインが開通したので、従来ほどロシアの顔色をみなくて良いからだ。アゼルバイジャンは独裁者だったアリエフの息子が大統領である。先代は足繁くワシントンへ通い、西側へのパイプラインで米国メジャーの協力を仰いだ(日本にもやってきた)。
グルジアは当面、アゼルバイジャンからの緊急輸入で凌いでいるが、この先は不透明である。
▼カネの前に「スラブの団結」(ソルジェニツィン)は消えてゆくのか?
ウクライナとの関係はもっと深刻である。
そもそもソ連崩壊前後に文豪ソルジェニツィンは亡命先の米国から帰国し、「重い下腹を切り捨てろ」と言った。
ロシアにとってはスラブ系のロシア、ウクライナ、ベラルーシが団結すれば良く、異教徒イスラム諸国は重荷だという意味だった。
そのスラブ系旧ソ連の三つの同盟国のあいだにさえ資源をめぐって対立が先鋭化していた。
プーチン大統領は06年12月22日、急遽ウクライナ入りしている。
毒を盛られて顔が歪んだ、かのユーシェンコ大統領とプーチンはキエフで天然ガスの安定供給や、ロシア軍が租借している黒海の軍港問題などを協議した。
プーチン大統領は会談後の記者会見で「二国間関係の重要性をお互い理解している」と強調した。
ウクライナ向けのガス輸出を一時停止し、欧州広域に影響が出たが、ちゃっかりと値上げを獲得、「両国の安定的な協力が欧州全域のエネルギー安全保障につながる」などと述べた。
プーチンが露骨に嫌うユーシェンコのウクライナへわざわざ飛んだ理由は、トルクメニスタンのニヤゾフ大統領の急死(06年12月21日)が直接の動機だった。
もしトルクメニスタンからガス供給が滞った場合、ウクライナにロシア産ガスの追加供給を検討すると言明した。それでユーシェンコ大統領は「建設的な対話ができた」と応じたのだった。
他方、ロシアはEU諸国を個別に取り込む戦略に乗り出した。ウクライナ、ベラルーシの頭越しである。
ガスプロムは独仏伊三国に「長期安定供給」を保証する一方で、見返り条件に各国市場での直接販売権獲得をのませたのだ。
たとえばガスプロムは仏政府系のフランスガス(GDF)と協定を結び、2012年までの輸出契約を2035年まで延長した。
代わりにガスプロムが仏国内で直接ガスを販売することを認めた。
▼日本はもって他山の石とせよ
ヨーロッパ各国が得た教訓とは何か?
地政学の基本である。資源を一カ国だけに供給を依存する危険性であり、供給源を多様化しなければならない、という原則の確認でもあった。
ドイツはロシアのガスに40%を、フランスは25%を依存している。日本がホルムズ海峡に80%の石油を依存している危険性に比べるとやや救いもあるが、急激な値上げには対応策がなかった。
この動きは日本とも重厚に絡むのである。
サハリン沖の資源開発事業「サハリン2」についてもガスプロムが主導権を握ることが決まった。
ガスプロムは日米露の交渉最終段階で三井物産や三菱商事、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルの三社が提案した金額に歩み寄った。
結局、サハリン2の譲渡価格は74億5000万ドル。
日本こそ資源戦略の根底的見直しが求められているのである。

