2010年04月14日

対岸の火事ではないタイ

宮崎正弘の国際ニュース・早読み 
 平成22年(2010年)4月15日(木曜日)通巻2939号(4月14日発行)
タイの赤シャツ部隊の黒幕はタクシン前首相だが、その背後は誰だ
 タイの政変で日本人カメラマンが狙撃された。この狙いは?

 タイ政治の暴力の主役は軍ではなく赤シャツ部隊だった。
 赤シャツは「反独裁民主戦線」とかを名乗り、アピシット現政権打倒が目的である。
 構成員はタクシン前首相を熱狂的に支持する地方からの農民、低所得者が主体の「組織」とされ、この黒幕はいうまでもなく外国に亡命しているタクシンだが、さらにこのバックにいて軍事作戦に秀でているのは軍の反主流派と推定される。
しかし、その背後には誰がいるのか?
 もともとタイの政治は穏やかな仏教徒という表の顔と裏には華僑と軍が組んだ独特の汚職体質暗い部分がある
 権力中枢はつねに暗闘が渦巻いており、表面的な分析はものの本質を見誤りやすい。

▲タノム追放の学生革命とて背後には華僑がいた

 1973年におきた学生革命は数百の犠牲があった。筆者はすぐにバンコックへ飛んで、昂奮気味の学生を取材し「百年遅れの明治維新」と書いたら、我が師林房雄から「拙速判断にすぎないか」と釘を刺された。
 軍が学生デモに水平に発砲し、死体を下水に埋め、あまりのことに国際批判がおきた。タノム首相は海外へ亡命し、学生が突如「英雄」となり、しかし一年後にタイ全学連は四分五裂の内ゲバ、今度は学生指導者が海外へ亡命した。

 その前のタイ学生運動は発火点が反日」である。
 1972年、バンコックに進出した日本のデパートを疎ましくおもった華僑が秘密裏に資金を出し学生を煽った。田中角栄の訪問でタイに反日暴動がおきた裏側にいたのはタイに溶けこんで政権と癒着した華僑だった

 このおりも筆者はタイに赴いて学生指導者と会ったが、殆どが華僑の息子達だった。つまり学生運動の主役等はエスタブリシュメントの子供達だったのである。

 タイ先住民と少数民族(カチン、カレン族など)は経済的に恵まれず、華僑や華人の子らがいく大学へ入れず、職業訓練校や専門学校につどう。
 だから「タイ全学連」なるものは主流派エリートと反主流に鮮明に別れ、殺し合いも演じた。警察や軍はタイ族主流のため、エリートに反発していた。この構造はいまも変わらない。

▲赤シャツ部隊にはタクシンから豊富な資金が流れ込んでいる

 赤シャツ部隊はタクシン元首相が農村部にカネを蒔いて買票した結果であり、タクシンそのものは世界有数のビリオネア、貧乏人への同情など希薄である。

 経済と流通を牛耳る華僑はまとまっていない。
華僑、華人はタクシン派と反タクシンとに別れ、06年には黄色いシャツを着たグループが示威行進におよび、軍がクーデタを起こしたため、タクシンは海外へ逃れた。
 このとき、民衆は軍のクーデタを支持した。

 さて今回の赤シャツ部隊タクシン支持派は軍にむかって発砲した!
 逆さまである。
 実態はデモ隊にまぎれこみ武器を潜していた軍人反主流派軍の治安部隊へ発砲したらしい。十数名の犠牲(殺された軍人のなかには副参謀長も含まれる)、重症の大多数は軍人であり、日本人カメラマンが流れ弾<?>、それとも意図的に撃たれた可能性が残る。
 
 繰り返すが、タイ経済を牛耳る華僑は一枚岩ではない。ばかりか縦横無尽に分裂している。

 タクシンは客家系で父親は警官から下院議員となったたき上げ、タクシン本人も警官から米国へ留学し、警察内部の出世街道にのったものの次々と事業に失敗、最後の一か八かを通信ビジネスへの進出で大当たり、政治家デビューは1994年。自身の政党「愛国党」は2001年に設立し、北京にも支部がある。親米親中派だ。

 アピシット首相は華僑の名門。そもそも英国生まれ、オックスフォード大学卒業、タイへ帰国しても弾サーと大学教授と、根っからのエリート、両親は医者という名家。
 政治家デビューは1992年、民主党。親英派

 図式的に見ればタクシンvsアピシットの根の深い対立構造があり、ちとやそっとで解決できたり、一夜にして政治の流れがかわるという状況にはない。

 タイの正月に内戦の様相。さもありなん。中国人にとっての正月である春節はとっくに終わっている。

posted by あんぽんたん at 18:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 国際 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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